はじめに
いじめを苦にした子どもの自殺が絶えません。子どもが学校でいじめにあって自殺し、学校や教育委員会はいじめはなかったとしたり、それを隠したりしたというニュースの繰り返しです。
しかし、いじめは子どもの世界だけの話ではなく、大人の間でもあります。男性にも、女性にも、日本だけではなく、世界中どこにでもいじめは発生しています。
そこで、いじめについて理解を深めたいとの思いから、最近関係する本を3冊読みました。
(一冊目)中野信子著「ヒトはいじめをやめられない」(小学館新書)
「いじめ」がいけないことだとは皆分かっていると思います。しかし、なくならない。これは、いじめが元々人間に本能として備わっているからではないのか?
そんな疑問を持っていましたが、本書を読んでその答えの一つがよく理解できました。
中野信子さんは、いじめを脳科学の視点から解明することを試み、いじめが人間の脳に備わった機能であると主張します。いじめの発生には、オキシトシンやセロトニンなどの脳内物質が関与しているとのことです。
本書の内容は、以下のようになろうかと思います。
いじめの快感
いじめのメカニズム
いじめは種を残すため、脳に組み込まれた機能。社会的排除は、人間という生物種が生存率を高めるために、進化の過程で身につけた「機能」ではないか。
人間社会において、どんな集団においても、排除行動や制裁行動がなくならないのは、そこに何かしらの必要性や快感があるから。
いじめに関わる脳内物質
オキシトシン(愛情ホルモン)
オキシトシンが分泌されると、相手への親近感や信頼感、安心感が生まれる。
オキシトシンがいじめを助長する。オキシトシンが仲間意識を高めすぎてしまうと、「妬み」や「排外感情」も同時に高めてしまう。
セロトニン(安心ホルモン)
セロトニンは「安心ホルモン」とも呼ばれ、セロトニンが多く分泌されるとリラックスしたり、満ち足りた気持ちになり、セロトニンが少ないと不安を感じやすくなる。
裏切り者検出モジュール
日本人は遺伝的にセロトニンが少ない傾向がある。このため、日本人は「慎重な人・心配性な人」が多い。
「心配性である=リスクを考える」ということは、つまり「裏切者検出モジュール」の強度が日本では強くなる。
ドーパミン(快感ホルモン)
ドーパミンは快楽を感じる際に分泌され、いじめ行動が「楽しい」と脳が認識することで、行動を繰り返す原因となる。
いじめの回避策
人間関係の流動性を作ることが必要。学校などの閉鎖的な人間関係は危ない。
(二冊目)坂倉昇平著「大人のいじめ」(講談社現代新書)
本書は、職場におけるいじめやハラスメントの実態を深く掘り下げた書籍です。著者は、15年間の相談事例を基に、職場いじめの増加とその影響を分析しています。
特に、長時間労働や過度な業務負担がいじめを助長し、精神的健康に悪影響を及ぼすことを指摘しています。また、「経営服従型いじめ」という新たな概念を提唱し、職場全体が加害者となる構造を説明しています。
本書は、職場いじめを防ぐための具体的な対策も提案し、労働環境の改善やハラスメント防止法の強化が重要であると強調しています。全体として、日本社会における職場いじめの深刻な問題を多角的に考察し、その解決策を模索する重要な一冊です。
(三冊目)重松清著「十字架」
「十字架」は、いじめを苦に自殺した少年の遺書を通じて、残された人々の苦悩と葛藤を描いた作品です。傍観していただけだが遺書に「親友」と記された少年の視点から、いじめの傍観者の罪と責任が問われます。 少年は成人してからも十字架のように苦しみが続きます。
重松清さんは、いじめをテーマにした小説を数多く執筆しており、「十字架」の他に「ナイフ」も特に注目されています。
まとめ
いじめは日本だけでなく、世界中どこでも発生しています。また、昔から発展した現代社会まで続いています。いじめが悪いことだとは、みな分かっているのに続くのはなぜだろうと疑問でしたが、中野信子さんの「人はいじめをやめられない」を読んで、その答えの多くが示されたように思います。何万年という人間の進化の過程で出来上がった仕組みですから、簡単にはなくならないのは納得がいきます。そのことをふまえて対策を考える必要がありそうです。
いじめは子供の間だけでなく、大人の世界でもあります。坂口昌平さんの「大人のいじめ」は、職場における大人のいじめを取り上げ、主に労働環境の悪化がいじめにつながるということです。
重松清さんの「十字架」は、自分も中学生の時同じような体験があったので、興味深く読みました。自分の場合は、一回ひどいいじめを目撃しましたが、内心では何とかしなければと思いながらその勇気がなかったと反省しています。それで、友達が亡くなったというようなことはありませんでした。小説では、クラスメイトが自殺し、その遺書の中に自分のことを「親友」と書いてあり、主人公の少年はそのことを十字架のように長く背負って生きていくことになります。
いじめについては、学校や教育委員会の対応や加害者側の心理状態などにも興味がありますので、今後もこのテーマでの読書を続けたいと思っています。
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