はじめに
人生100年時代、セカンドライフの充実が注目される中、シニア世代の恋愛と性に対する関心が高まっています。しかし、高齢者の性愛はタブー視されがちで、情報も限られているのが現状です。
この記事では、シニアの恋愛と性をテーマにした書籍を、小説、実用書から紹介します。高齢者のリアルな恋愛事情や性欲、社会との向き合い方など、それぞれの書籍が独自の視点で描いています。
文芸書
沈黙の人

著者 小池真理子
出版社 文芸春秋社
内容
主人公は、東北帝大を出て、石油会社の支店長だった三國泰造です。
最初に結婚した妻(久子)と娘(えり子)を捨て愛人の元に走り結婚。二番目の妻(華代)との間に二人の娘(可奈子、千佳)をもうけます。
定年退職後、パーキンソン病を患い川崎市の介護付き有料老人ホームで暮らしていました。
話すこと、歩くことができず、最後はワープロで文字を書くこともできなくなりました。
唯一心の通っているのは、最初の妻との間に生まれたえり子です。二番目の妻華代は一度も施設に会いに来ることもありません。
えり子は、話すことも文字を書くこともできず、まったく意思疎通のできない「沈黙の人」になってしまった泰造のために、「文字表」を作ってやりました。泰造は、文字を指で指し示すことによってかろうじて意思を伝えることができました。
泰造が亡くなり、娘たちが遺品整理をしていく中で、生前の泰造の状態が徐々に分かってきます。
介護施設の部屋に段ボール箱一杯の性具やポルノビデオが遺されていました。自宅のベッドのマットレスの下にビニ本があり、老女の裸が映っていました。可奈子と千佳は気持ち悪がりますが、えり子はアダルトビデオの一本を自宅に持ち帰ります。
泰造には親しくしていた二人の女性(小松日出子、鶴見ちえ子)の存在があったことが明らかになっていきます。
一人は仙台支店での10年間の単身赴任時代にできた愛人(ちえ子)でした。介護施設に入る前、しゃべることもできず、すくみ足になっていましたが、一人で電車に乗り最後の力をふりしぼりその愛人に会いに行き、三日間その女性の自宅に泊まっていました。
もう一人は、手紙のやりとりだけでつながった短歌友達の女性(小松日出子)です。
意思疎通も歩くこともできず無力になって、絶望の中の「沈黙の人」。それでも何とか生きようとする姿が描かれています。それには性が一つの大きなエネルギー源になっていたと思われます。
わりなき恋
著者 岸恵子
出版社 幻冬舎
内容
岸恵子の小説『わりなき恋』は、69歳の女優と58歳のビジネスマンの恋愛を描いた作品です。この物語は、人生の終盤に差し掛かった二人が、年齢や社会的な制約を超えて恋に落ちる様子をリアルに描写しています。岸自身の経験を反映させたこの小説は、恋愛における理屈や分別を超えた感情の深さを探求しています。
物語の中心には、岸の分身とも言える女性キャラクターがいます。彼女は、年齢を重ねてもなお恋愛に対する情熱を持ち続け、相手の男性との関係を深めていきます。恋愛は、時に理屈を超えたものであり、年齢に関係なく人間の心を動かす力を持っていることが強調されています。特に、恋に落ちた瞬間の高揚感や、日常生活の中での逢瀬の喜びが描かれ、読者に共感を呼び起こします。
また、物語は単なる恋愛小説にとどまらず、晩年の恋愛に伴う葛藤や社会的な制約も描写しています。特に、男性キャラクターは家庭を持ちながらも新たな恋に挑む姿が描かれ、彼の内面的な葛藤が物語に深みを与えています。岸は、恋愛が持つ複雑さや、年齢を重ねたからこその成熟した視点を通じて、読者に深いメッセージを伝えています。
『わりなき恋』は、恋愛の本質を探求し、年齢に関係なく人間の心が求めるものを描いた作品です。恋愛の喜びや苦悩を通じて、読者は人生の意味や愛の形について考えさせられることでしょう。
実用書
熟年恋愛講座(文春新書)

著者 小林照幸
出版社 文芸春秋社
内容
主な内容は以下の通りです。
- 高齢者施設の恋愛事情: 老人ホームでの恋愛模様や、高齢者の性欲が衰えない現実を、具体的な事例を交えて紹介。
- 熟年世代の性風俗: 熟年男性が通う性風俗店の現状や、そこで働く女性たちの証言を通して、高齢者の性欲と向き合う姿を描写。
- 恋愛と性愛の多様性: 雑誌に寄せられた読者からの手紙や、実際に恋愛をしている高齢者へのインタビューを通して、恋愛や性愛の多様性を提示。
- 社会への問題提起: 高齢者の恋愛と性愛をタブー視する社会の現状に疑問を投げかけ、高齢者の性のあり方を考えるきっかけを提供。
本書は、高齢者の恋愛と性愛をタブー視せず、人間の自然な欲求として捉えることの重要性を説いています。また、高齢化社会における性のあり方を考える上で、貴重な示唆を与えてくれる一冊です。
セックス難民(小学館新書)
「ピュアな人しかできない時代」

著者 宋美玄
出版社 小学館
内容
本書は、高齢化社会におけるセックスに関する問題を扱っています。この本では、特に熟年世代が抱える「セックス難民」という現象に焦点を当てています。セックス難民とは、セックスをしたいができない、またはしたくないのに強いられる人々を指し、今後ますます増加すると予測されています。
本書では、ED(勃起不全)、更年期障害、体型の変化、セックスレス、パートナーがいないといった多様な要因が、セックスを望む人々の障害となっていることが説明されています。著者は、これらの問題に対処するためには、心と身体の両面からのアプローチが必要であると強調しています。具体的には、パートナーシップの質を向上させるためのコミュニケーションや、相手を思いやる姿勢が重要であると述べています。
また、現代のメディアが取り上げる熟年世代の性に関する情報の誤解や偏見を指摘し、正しい知識を持つことの重要性を訴えています。特に、性に関する教育や理解が不足していることが、セックス難民を生む一因であるとし、これを改善するための具体的な方法や考え方を提案しています。
この本は、セックスに対する意欲や理解を再構築し、豊かな人生を送るための処方箋として位置づけられています。著者は、セックスに対する考え方を見直し、年齢に関係なく充実した性生活を送るためのヒントを提供しています。全体として、セックスに関するオープンな対話を促し、個々のニーズに応じた解決策を見出すことを目指しています。
70歳からの人生の楽しみ方
いまこそ「自分最高」の舞台に立とう!

著者 櫻井秀勲
出版社 きずな出版
内容
この本は、以下の8章から成っています。
第1章 「歩ける」「食べられる」を長く保つ
第2章 「未知の人」「未知の世界」に触れてみる
第3章 「使えるお金」「使わないお金」を使い分ける
第4章 「病気をしたとき」「ケガをしたとき」を覚悟しておく
第5章 「恋愛」「セックス」を人生から閉め出さない
第6章 「家族の絆」「仲間の絆」を断ち切らない
第7章 「したいこと」「しないこと」をきめておく
第8章 「80歳の自分」「90歳の自分」を楽しみに迎えよう
この中で恋愛、性に関係する第5章「恋愛」「セックス」を人生から閉め出さない
の細目は以下の通りです。
・おいらくの恋は恐るるものなし、でいこう
・自分で「できない」と決めつけない
・70歳を過ぎるとモテるようになる
・出会いだけで終わらせない次の一手
・世間のルールより、自分のルールを優先する
自分のルールを優先するというのは、力強い言葉です。その中で、「ただし、だからといって何をしてもいいわけではありません。自分の気持ちを大切にしながら、周囲も大事にできる、というのが大人の甲斐性です。」と著者は述べています。
シルバーセックス論

著者 田原総一朗
出版社 宝島社
内容
田原総一朗著『シルバーセックス論』は、高齢者の性生活や婚活に関する現状を探る内容で、シニア世代の性に対する考え方や行動を多角的に分析しています。
本書では、シニア世代が抱える性生活の悩みや、婚活の実態について詳しく述べられています。特に、熟年結婚をしたカップルの性生活に関する調査結果が紹介され、セックスレスの傾向が見られる一方で、肉体関係を持つカップルも多いことが指摘されています。著者は、シニア女性の中には「セックスはしなくてもいい」と考える人が多いものの、実際には多くのカップルが肉体関係を持っていると述べています。
また、シニア世代の性に関する知識の不足や、性に関する話題がタブー視される現状も取り上げられています。特に、若い世代と比べて情報収集の手段が限られているため、性に関する疑問を他人に相談できないシニア女性が多いことが問題視されています。
さらに、著者は高齢者専用の風俗やシニア向け婚活パーティーなど、新たなサービスの登場についても言及し、これらが高齢者の性生活にどのように影響を与えているかを考察しています。高齢者が自由に恋愛や肉体関係を楽しむことができる社会の実現が求められていると強調し、シニア世代の性に対する偏見をなくす必要性を訴えています。
全体として、『シルバーセックス論』は、高齢者の性生活に関する現実を直視し、彼らのニーズに応える社会の構築を促す重要なメッセージを発信しています。
終章「生涯現役宣言」の中では、著者の友人である猪瀬直樹氏との興味深いやりとりが展開されます。猪瀬氏は最初の奥様が亡くなって大きなダメージを負いましたが、3年後にすばらしいパートナーに出会い、再婚しました。そこで、「恋する日常の大切さ」を述べています。「彼女といる時、気持ちは十代とか二十代の思春期まで戻る」、「彼女とは本当に会話が尽きない、一緒に散歩していても本当に楽しい」そうです。
70歳のたしなみ

著者 坂東真理子
出版社 小学館
内容
この本の「第4章 品格ある高齢期を生きるために」の中で「70歳、新しい恋愛だって始められる」という項目があります。
著者は、70歳前後で妻と死別した高齢者は、子どもたちと同居するより一人暮らしを強く勧めています。そして、高齢になるほど男性の数は減り、希少価値があるので、健康で身ぎれいにして、女性に親切ならば、他に特に取り柄がなくても「第2のモテ期」がやってきて、楽しい生活が楽しめるとのことです。
ただし、若い女性にモテたいなどとよこしまな気持ちを抱くのはやめた方がよさそうです。
まとめ
この記事では、シニアの恋愛と性をテーマにした小説2冊と実用書5冊を紹介しました。
小説では、小池真理子著『沈黙の人』は、介護施設で暮らす男性の性への欲求や、家族との関係を描き、岸恵子著『わりなき恋』は、69歳の女優と58歳のビジネスマンの恋愛を通して、年齢を超えた愛の形を問いかけます。
実用書では、小林照幸著『熟年恋愛講座』は、高齢者施設の恋愛事情や熟年世代の性風俗など、高齢者のリアルな恋愛と性愛を描いています。宋美玄著『セックス難民』は、高齢化社会におけるセックスの問題点を指摘し、櫻井秀勲著『70歳からの人生の楽しみ方』は、高齢期の恋愛やセックスについて、自身のルールを優先することの大切さを説いています。田原総一朗著『シルバーセックス論』は、高齢者の性生活や婚活の実態を分析し、坂東真理子著『70歳のたしなみ』は、高齢期の恋愛について、心構えや注意点を解説しています。
これらの書籍を読むことで、高齢者の恋愛と性に対する理解が深まり、自身のセカンドライフをより豊かに生きるためのヒントが得られると幸いです。
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